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鹿児島の「田舎そば」

私の温泉以外のもう一つの好物は「そば」だ。鹿児島において「そば」は特産ではないが、それでもおいしい蕎麦屋は多い。私は谷山という洗練された大都会で生まれ育ったため、基本的には関東風の白い細打ちせいろが好みだ。日曜の昼間からこれと日本酒でフラフラになるまでやると日頃の疲れも吹き飛ぶ。もれなくおまわりさんの職質もついてくるが・・・。

しかし、最近テレビやSNSの影響により、ラーメンを始めとする保守系麺業界に女性客を取り込むための改革の嵐が吹き荒れ「そば」界においても影響が出始めている。各飲食店が創意工夫を凝らし、品質向上に努めることは大変良いことで、客の立場からすると喜ばしいことなのだが、ちょいちょい意識高い系のおしゃれをこじらせた不思議料理を提供してしまう事故も起きている。つい最近私もこの事故に巻き込まれた。そこは居酒屋でありながらおいしい手打ちそばが食べられることで知られている店で、そば以外もかなりいける私的にはランクAの店だった。酒と食は進み、いよいよメインの「鴨せいろ」を待っていたところ安定の手打ちそばと謎の赤いつゆ?かえし?が出てきた。???私は一瞬で店側が注文を取り違えたことに気づいたが、これまでの料理の安定のおいしさと、食わず嫌いは良くないのではないか?というチャレンジ精神から指摘を止め、その謎のせいろに挑むことにした。

「戦の前に勝利を決めよ。」とは武田信玄の言葉である。この名言に習い、私はまず敵を知ることにした。まずこの赤い何かは何なのか?舐めてみることにした。トマトだ。奴はトマトだったのだ。「せいろ feat.トマト」である。最近女性人気からありとあらゆるシーンに登場している奴がこの場面でも出てきたのである。奴はリコピンという意識高い系が好きそうな響きの武器をひっさげ、自らの市場であるパスタ・ピッツァにとどまらず、鍋、ラーメンとそのシェアを拡大している新興勢力だ。確かに私はトマトラーメンもトマト鍋とも遭遇したことがあり、その度に「トマトなんてもんは軟弱者の食べ物で我々侍の食べ物ではない。」という私の考えを木っ端みじんに砕かれ、「・・・まぁ、これはこれでうまい。」と言わされ続けてきた。そして今回あろうことか奴は私の最も大切にしている「そば」の分野にまでその触手を伸ばしてきたのである。そして、間違って私の前に現れたとはいえ、このランクA店にメニューとしてラインナップしている以上、既にその実力は織り込み済みであることは容易に想像できた。「不味いはずがない。」私はそう判断し、自信満々にそばを奴に付け口の運んだ。

クソ不味い。とにかくクソ不味い。

完全に高速道路で正面衝突を起こしてしまった。そばとトマトと返しがバトルロイヤルを起こし、そばなのかパスタなのかもう何なのかわからない何かになっていた。絶対に試食はしたであろうこのメニューがあんなにセンスのいい店になぜ並んでいるのかいまだに不思議でしょうがない。どういう経緯で奴が「そば」とfeatすることになったのかは知らないが己の力を過信しすぎたのだろう。「そば」への進出は大失敗だ。この店は一刻も早くこいつを戦力外にすべきであろう。ランクもAからCへと降格させた。

ということでやはり「そば」は余計なことはせず、本来の香りと味覚を楽しむのが良いのである。ここで弊社がある伊集院にある隠れた名店を紹介したい。ここは昔ながらの田舎そばが売りであり「せいろ」ではなく「かけ」を推奨する。「山芋付き」に特注で卵を付ける「山芋月見」は絶品であり、私も週に3回は足を運ぶ。

店名は「じねんや」という。本来「そば」特に「手打ちそば」は手間暇がかかるうえ、大量生産が難しいので比較的高価になりがちであるがここはだいぶ安い。

この素晴らしい品質を保つためにも今後もこの店を応援していきたい。ちなみにここはあの「そば番付」にも入っている名店である。この番付表を作成している方は田舎そば好みの方で、田舎そばの名店が番付上位を占めている。ちなみにこの人は「温泉番付」も発行しており、私は過去にそれぞれの番付の裏付けを取ってみたが、素晴らしいセンスであった。

私もゆくゆくは、当ブログを独立させ「温泉サイト」や「そばサイト」を立ち上げてみたいと思う今日この頃である。そして各店舗は、おしゃれをこじらせた小手先の小細工ではなく、技術と品質、サービス、空間環境を追求した創意工夫努力へ取り組むことを切に望む。

 

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